読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

電子書籍で懐かしい漫画を読み返している

本のはなし よしなし

ただ活字を読むためのものだと思っていたkindleで漫画を読むことを覚えて以来、かなりの漫画を読んでいる*1かつて読んで好きだった漫画、気になって手を出さずにきた漫画、新たに友人に勧められた漫画。24時間端末とWi-Fiがあれば、どこにいようと手荷物を気にすることもなくたやすく大人買いできてしまう電子書籍は、素晴らしくて恐ろしい。

懐かしい漫画を読み返すことが増え、新しく感じることもいろいろとあり、面白い。

例えば佐々木倫子動物のお医者さん』を最初に読んだとき、わたしは小学生だった。

動物のお医者さん 文庫全8巻 完結セット  (白泉社文庫)

動物のお医者さん 文庫全8巻 完結セット (白泉社文庫)

 

実に数十年ぶりに読み返し、不思議なくらい色褪せない作品であることに驚かされつつ、主要登場人物のひとりである「菱沼さん」に注目してしまう。注目するのは彼女のユニークな言動行動人間性ではなく、彼女の社会的身分についてだ。

連載当時はまだ雇均法改正(1999年)より遥か昔であり、「女性」で「理系」の「博士課程学生」である彼女の就職活動を巡るあれこれは、現在の視点から見るとなかなかスリリングである。例えばリクルーティングのためH大学を訪れる企業は明確に「女性を採用したくない」という姿勢を示すし、菱沼さんが博士課程に進むことを決めた時点で担当の菅原教授は「見合いの斡旋」について本気で頭を悩ませる。

当時の女性の進学事情、結婚事情、就職事情、リアルタイムで読んでいるときはまったく気づかなかった(子どもだったし、当時はここに描かれているような状況が当たり前だったので無理もないのだけど)。それでも連載終了まで菱沼さんは、葛藤はありつつも独身のまま、無事就職して好きな研究も続け、自立して生活しているのは素晴らしい。

……そんなことをつらつら考えていた秋頃にkindle手塚治虫値下げ祭りがあり、わたしは喜び勇んで「ブラックジャック」や「火の鳥」その他を大量に買い込んだ。

現在販売されている手塚作品のコミックス巻末には、彼の作品には現代の感覚では「人種差別」と見なされて仕方ない描写を含むが作者に差別意図はなかったこと、作者が故人であること等に鑑みて修正をしないことなどを記した1ページが不可されている。確かに、手塚(に限らず少し前の作家たちの多く)の作品には人種、民族に対する現代でいうところの偏見を感じさせる描写が多い。別に彼らが差別主義者だったわけでもなんでもなく、そういう時代だったのだから、作品内の描写自体にはなんとも思わない。

しかし「エクスキューズがなぜ人種差別についてのみなのだろう」ということが今回どうしても引っかかった。ブラック・ジャックがかつて愛した学友・如月恵に関するエピソードが、現代の観点からいえば相当に問題があるように思えたからだ。

如月恵はブラック・ジャックの医学生時代の同期であり美しい女性だった。 しかし彼女は子宮がんにおかされ「命をとるか、女性であることをとるか」の選択に悩み、命をとった。女性生殖器を失ったことで「女性であること」を捨てた如月恵は「きさらぎ めぐみ」という女性から「きさらぎ めぐむ」という男性に姿を変え、船舶常駐医師としての新たな人生を歩むのである。子宮を取ったら男なのか、という点からそもそも奇妙な感じがするし、女性疾患や妊娠の悩みを持つ人に対してはかなり乱暴で残酷な描写だ。

時代によって倫理は変わるもので、過去の表現物をどうこうしろとは思わないけれど、「人種(外国人)差別についてのエクスキューズ」が強調されているのはどうしてなのだろう。文章の後段に「あらゆる差別に反対」という記載があるので、ここで「現在の視点で見た場合の適切でない描写」全般に言及していると読めなくもない。しかし、素直に読めば冒頭に「外国人登場人物の描き方の一部が人種差別を助長するものと指摘されている」とあり、この指摘に対するスタンスを説明する文章となっている。せっかくこういうページをつけるのなら、人種差別にこだわらずもう少し幅広く現在との感覚の違いについて理解を求める書きぶりにしたほうが良いのではないかな。

といった、うだうだ感はともかくとして手塚の漫画はやはり面白いし、収納スペース考えずどんどん漫画を買える電子書籍もすばらしいので、どんどん拡大していただきたいところです。年末は水木先生追悼読書期間(新版の悪魔くんが電書で読めないのが残念)、年始は志村貴子さんの「放浪息子」絶賛読み返し中で甘酸っぱい思いに浸っているところ。幸せ。

*1:動作の遅い電子ペーパー端末に加えてiPad miniを所有することになったのは大きな動機のひとつ。