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メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

わたしのアッシュを返して

イワン・リオンというウェールズ出身の俳優を知ったのは、BBCドラマ「ミスフィッツ(Misfits)」だった。非行によって社会奉仕活動に参加することになった面々がふとしたことから超能力を持ち、悪と戦うようになる、というある意味バカバカしい話で、イワンの演じるサイモンは当初は捻くれたナード青年として登場する。そして、思いを寄せる女教師に半ストーカー状態になった挙句殺す、というろくでもない展開を経て、後のシーズンで彼はなぜか悲劇のタイムリープヒーローに姿を変えた。

行き当たりばったりというか、ご都合な展開であるのは百も承知だけれど、わたしはBBCドラマにありがちな、ドクターフー的な安っぽい特撮といかにもなSF設定は嫌いでないし、何よりタイムリープ絡みの悲恋ものに目がない。大抵の人が「ネイサンがいなくなったシーズン2以降はつまらなかった」と評するこのドラマ、わたしはサイモンが活躍するシーズン2〜3も十分楽しんだ。

次に出会ったイワンの出演作は、iTVシットコム「Vicious」だった。

簡単に説明すると、英国を代表する名優でありいずれもサーの称号を持ち、さらにはいずれも同性愛者であることを公表してLGBTに係る運動に関わってきたサー・イアン・マッケランと、サー・デレク・ジャコビが「50年連れ添ってとうのたったゲイカップル」を演じるシットコムで、2013年にシーズン1が、2015年にシーズン2が放映された。

設定に惹かれてこのドラマを観始めたわたしは、それまで「カドフェル(ドラマ)」「コズモ・ラング(英国王のスピーチ)」「やたら朗読で名前見かける」程度の印象しかなかったデレク・ジャコビの大ファンになった。そして、お互いに「自分は若くてまだまだいけていて、こんな年寄りじゃない素敵な彼氏が見つかるはず」と思っている老カップルに何かとちょっかいを出される近所の好青年アッシュを演じるのがイワン・リオンであることに気づいた。

アッシュはとにかくいい子だった。誰からも愛されていた。本人はまったくのストレートだけれど、老カップルのちょっかいをかわしながら良き隣人友人として彼らと付き合う。一緒にジムに通い始めるとそこのトレーナー(ゲイ)からもちょっかいを出される。その他、ちょっと釣り合わないくらい年上女性(訳ありバツイチ女性バイオレット)にもモテてしまうのだけれど、いい子のアッシュは誰も傷つけないよう慎重に振る舞い、彼らとの友情を大事にする。一方で同世代の女の子からはすぐに振られてしまい、どうにも女性運はない。

このドラマではじめてイワンという役者に注目したわたしにとってイワン=いい子なイメージが染み付いてしまった。

イワンを全世界的に有名にした、この役どころを実際に目にするまでは……。


ゲーム・オブ・スローンズ」のラムジー・スノウ(ボルトン)。落とし子としての苦悩やそれゆえの歪みがあったことを最大限斟酌したとしても、同情しきれないサディストの変態。趣味は皮剥ぎ、元愛人に弓を射る人間狩り。捕虜の皮を剥ぎ、指を切り人に送りつけるどころか局部を切り取り去勢して人格破壊に及ぶ。嫁を取ったと思えば、その嫁を幼馴染の前でレイプした上監禁して連日の暴力とレイプ。身内を容赦なく殺して飼い犬に食わせる。

初代憎まれ王子ジョフリーの嗜虐性がある程度「育ちの悪いクソガキ」で許されてしまう一方、ラムジーの場合は一切可愛げのないひたすら憎まれる変態かつ完全悪に近い描かれ方をした。そして、そんな憎まれ役を、イワンは完璧に演じてしまった。そう、加齢により心が広くなり大抵の悪役憎まれ役を微笑ましく眺められるようになってきたわたしですら彼の不幸な結末を望むほどに……。

耐え難くて「極悪非道のラムジー」をテレビで見ながら「好青年のアッシュ」をチェイサーとしてパソコンで再生したりもした。それでも、あまりにイワンはラムジーを好演しすぎた。

ラムジー・スノウ(ボルトン)の被害者は山ほどいる。シオン、鉄諸島の救出メンバーやモウトケイリンにいた部隊、占領された北部の人々、サンサ・スターク、さらにああんな人やこんな人も。しかしわたしにとって奴の最大の被害者は「アッシュ」だ。ラムジーの狂気を目にして以来、あんなに「可愛いいい子」一辺倒だったアッシュを見るたび脳裏には同じ顔をしたドSサディストの姿が浮かんでくる。もはやわたしはかつてのような微笑ましい思いでアッシュを眺めることができなくなってしまったのだ。

というわけで、結論としてはイワン・リオンは実に良い俳優だ、というところに落ち着くのだが、やはりそれはそれとして、わたしは声を大にして言いたい。

「わたしのアッシュを返して!」と。