メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

暴力のスイッチ、そして「逃げるが勝ち」ということ(8・終)

(前のエントリーの続きです)

ちょっと悔しい気持ちはあった

さて、長々と引っ越しに至る経緯を書いて来たわけだが、騒動の間、わたしの中にも恐怖だけでなく戸惑いや怒り、やり切れなさなど様々な感情が渦巻いた。日々状況報告をしていた職場の後輩は「最後の晩に屈強な男ばかり連れて行って、床踏みならして引っ越しパーティーしましょうか」と冗談交じりに繰り返したが、実際これだけの目にあわされると、相手にも一泡吹かせてやりたいという気持ちが湧き上がらなかったわけではない。

「バーカ、と書いた手紙を投げ込む」「警察に通報した旨を書いた手紙を投げ込む」「般若心経を投げ込む」等々、冗談半分に考えないわけでもなかったが、もちろんいずれも実行には移さなかった。99%確信していても、数々の暴力行為が1A号室の住人によるものだと、掃除機の音が3B号室の住人によるものだと、確認が取れているわけではない。だからわたしはただ共用玄関にある自室の郵便受けに「退去しました」と書いた付箋紙を貼って、マンションを去ることにした。

わたしが退去したことだけは知って欲しかった。

騒音の発生源だと思っていた住人が退去したのに状況が改善しなければ、彼は勘違いに気づくだろう(拍子抜けして嫌がらせ行為が止むのか、新たに騒音主の目星をつけてそこを攻撃し始めるのかはわからない)。何より、わたしが退去したことに気づかれないままだと、もしかしたらわたしの住んでいた部屋に次に入った住人が、同様の謂れない嫌がらせを受けるかもしれない。わたしは後手後手に回ってしまったせいで結局相手の誤解を解くこともできず、逃げるしかないところまで状況を悪化させた。悪循環はここで断ち切っておきたかった。

わたしたちは対話すべきである

今回、こんなにややこしいことになってしまったのは、今回の関係者(であろうと思われる者)が全員、直接の対話を避けたからではないかと思う。

嫌がらせ行為の主は、騒音への不満や要望を直接相手もしくは仲介してくれるはずの家主に伝えず、「騒音主と思われる相手(しかも勘違い)」に言語ではない「天井を叩く」「郵便受けに嫌がらせする」等の方法に頼ったが、何しろ相手が間違っているのだから彼の望みは叶わずに行為だけがエスカレートした。彼は家主経由でも郵便受けに手紙を投函するのでもいいから、何が迷惑で何をやめて欲しいのかを言葉で訴えるべきだった。そうすれば要望は伝わるし、伝えるべき相手が間違っていることも早期に判明したはずだ。

わたしも、ただただ面倒を避けるために対話を避けた。もっと早い段階で家主に相談して状況を解決する努力をして誤解を解いていれば、事態はこんなに悪化しなかったかもしれない。

騒音主(と思われる3B号室の住人)もそうだ。わたしが相談を始めた後、早朝の掃除機を止めてもらう必要があると考えた家主はその部屋の住人と話をしようとした。しかし明かりがついているのにチャイムを鳴らしても出ない。契約書に書いてある番号に電話しても出ない。家主が身分を明かして折り返し連絡をくれるよう留守電やメモを残しても一向に反応がないのだと嘆いていた。その人物もまた、対話に応じようとはしなかったのである。

部屋はそれぞれ独立していたとしても、赤の他人同士が同じ屋根の下で暮らすというのは簡単でない。いまどき大抵の住人はお互い干渉したくないと思っているだろうし、極端な話、どこにどんな人が住んでいるかを把握し合うことすら何となく嫌だと感じているのではないだろうか。でも、そこで発生した問題を解決するには、対話が必要だ。実際下の階の人物は、いくら郵便受けに嫌がらせを続けて天井を叩いても、果てには(彼は認識していないかもしれないが)明らかに器物破損という犯罪行為に到るまで追い詰められたのに、実際の騒音主には何一つ伝わらないままだった。

普段「察してちゃんは面倒臭い」と言っているわたしだが、「黙っていればいつか止むかも」「(郵便受けに入れられたゴミを)外に見えるように出しておけば、嫌がっていることに気づいて止めてくれるかも」という今回の振る舞いはまさしく「察してちゃん」そのままだったと反省している。

まあ、それでも最後は「逃げるが勝ち」

とはいえどうしても状況が悪化してしまうことはあるわけで、やはり命は大事だから、そういうときは割り切って逃げるのが一番、というのも今回得た教訓である。

繰り返すが、引越しには労力もお金もかかる。

病気、怪我、失業等のリスクに備え最低年収半年分(2年分だったかも)くらいの貯蓄を持つべきだと言われても「そんなもんか〜」と人ごとのように考えていた。しかしわたしに貯蓄がなければ、今回ホテルに避難することも引っ越しすることも難しくて、ひたすらあの部屋で恐怖に怯えて、しかも室内にいるときに窓ガラスにブロックをぶつけられる羽目になっていた。「変な隣人に当たる」「ストーカーに狙われる」といったリスクも、誰しもの身に降りかかり得るものとして備えなければならない時代なのだろうか。悲しい話だが、いざというとき身を守るためにも多少のお金は持っておかなければいけないことを実感した。

引っ越してみると、安心と安全は何にも代えがたいと心底思う。住む場所やインテリアが変わることでよりスムーズに気持ちも切り替えられた気がする。前より狭いワンルーム暮らしにはなったが、これまでの窓のないキッチンと比べて、明るい部屋のコンパクトなキッチンで映画を観ながら料理できるのはとてもわたしに合っていて、自炊の頻度が格段に上がるなど引っ越しを機に生活にも良い影響が出ている。今回の引っ越しをただの「トラブルからの逃亡に不要なエネルギーを使ってしまった」記憶にしないためにも、新しい場所での生活をポジティブに捉えるよう心がけたいものである。

新しい部屋の玄関ドアは少し重いので、開けるときに引っかかるような感覚がある。今もその度に、玄関前にばらまかれていたもののことを思い出してドキッとする。たまに前の部屋に住んでいて、恐ろしい目にある夢を見て夜中に目を覚ます。でも多分、それもそんなに長くは続かない。

最後に、今現在近隣トラブルで悩んでいる方には、状況は個々に異なるだろうけど、共通する対応策として「とりあえず早めに管理会社や大家に相談」「それで解決が怪しければさっさと逃げる」ことを推奨したい。

というわけで、もう2度とこういう話を載せることがないことを祈りつつ、この長いエントリーも、これでおしまい。(ネット上で関わりのある方々にもご心配、お心遣いいただきありがとうございました。ちょっとしたお言葉一つが本当に心の支えになりました)

 

(参考)これまでのお話