メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

サブウェイと「That's it」

サブウェイについてのこんな記事が話題になっていた。

はじめてサブウェイに行ったのはいつだか、記憶にない。わたしの故郷の田舎町に店舗があるはずがないから(というか、今もない)、東京か福岡かそれ以外の旅先か。とにかく七面鳥を愛するわたしにとっては、日本で数少ない「手軽にターキーが食べられる店」で、だからよく入る。職場にテナントが入っていた時期など、下手すると毎日お昼はサブウェイだったりもした。

基本的に「ターキーブレスト」しか頼まない。

オリーブは苦手だから抜く。ピクルスは多め。

昔はパンはハニーオーツ一辺倒だったけれど、フラットブレッドが導入されてからは半々くらい。

ドレッシングはハニーマスタード。なくなっていた時期は涙を飲んでバルサミコでお願いしていた。

サブウェイについて考えるときに思い出すのは、フロリダのロードサイドの店舗。友人を訪ねて行ったアメリカで、さらにその友人と合わせて3人でフロリダに行った。途中お腹が空いたのでサブウェイに寄ったのだ。

アメリカに行くのはそのときがはじめてで、わたしの英語は今よりさらに下手というか、喋り慣れていなかった(上手いか下手かといえばいまも下手だ)。でも友人は楽観的で「慣れたらすぐ喋れるようになるよー」と、買い物でも美術館でも、わたしがよっぽど助けを求めない限りは放っておかれた。それどころか運転しながら「やばい、約束の時間に間に合わないから電話かけて!」と携帯を投げてくる始末。今思えば恐怖に震えながら「わたし、Rの友達。渋滞で遅れるけど、あと5分で着くから」と拙くも口にしたあのときが、電話口で英語を話した最初だった。

ところで英語には「That's it」という言い回しがある。

言い方やシチュエーションによっていろいろなニュアンスになるが、要するに「おしまい」という意味。最初はドラマの口論シーンで「もう十分」という意味で使われているのを観たんだったか、ともかく英語のテキストでは見たことのない言い回しに「へえ」と思ったのを覚えている。

意識しはじめると、この「That's it」、使い勝手がいいのかあちこちで耳にする。すると自分でも使ってみたくなるのだが、小心者ゆえ「学校で習ったわけでもない、日本語に直訳して意味がピンとこない言い回しを使って、通じなかったらすごく恥ずかしい」という気持ちに押しつぶされて、わたしはなかなかこの短い一言を口にできずにいた。

そこでサブウェイである。

日本ではあの注文方式にも慣れていたが、そこはフロリダ。店舗に入ったわたしは、自分が店員のアメリカ人女子相手にちゃんとサンドウィッチを注文できるのか、内心ではかなりビクビクしていた。もちろん友人たちはわたしの動揺に気づきもせず、さっさと注文をすませてしまう。わたしも妙に意地っ張りというか見栄っ張りなので「英語が通じるか怖いから注文手伝って」と言えない。

わたしはドキドキしながら店員に向かって野菜を選び、聞いたことのないチーズ(アメリカのサブウェイはチーズの種類が多かった)を選んだ。そして最後に「ほかに何か追加する?」と聞かれ——そのとき、ふと「今だ」と思った。

そう、わたしはその日はじめて「That's it」という言葉を口にしたのだ。

彼女は、わたしの「That's it」を聞くと「OK」だかなんだか言ってから、なんともない顔をしてサンドウィッチを手にレジに向かった。通じた。わたしの「That's it」は通じたのである。恥ずかしいので浮かれた顔もできず、友人にその気持ちを伝えることもできず、しかしわたしは内心感動に打ち震え、勝利の味がするサンドウィッチを噛み締めた。

一度通じてしまえばあとは楽で、わたしは今ではなんの躊躇もなしに「That's it」を口にすることができる。しかし間違いなく大きな一歩を踏み出す勇気をくれたのはサブウェイで、だからわたしはサブウェイにはとても感謝しているし、ターキーブレストは素敵な食べ物なのでなんとしてでも日本から撤退せず頑張って欲しいと思っている。