メトロガール

あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

足もとの毒

二度目の外国暮らし、初めての外国語での仕事。

わたしはものすごく怠け者で「なるようになれ」という精神性で何となく世の中を生きてきた。なので、外国の、日本人がほぼいない環境で仕事をすることになるかもしれないと10ヶ月前にはわかっていたのに「まあ、まだポシャるかもしれない話だし」と一切の語学に関する努力をしないまま赴任の日を迎えたのである。

もちろん、結果は言うまでもない。

文章を読むのは何とかなるにしても、メール一本書くのにやたら時間がかかる。打ち合わせをしても、何となく話の流れがわかる程度で議論には入れない。正直戦力には程遠い。日々が諦めと妥協と恥辱。それでも自分自身への期待値がそもそも高くないことに加え、「まあ、この程度で命は取られない」という加齢からくる図太さで何とかなっている。

目下一番の問題は、耳ができていないことで、相手の言っていることがちゃんと聞き取れないと話に入ることもできない。特に多国籍環境だと、英語ネイティブほど難しい表現は使われない一方で「訛り」「母語に影響される独特の表現」「そのくせ割と早口」といったハードルが立ちふさがる。もちろん同僚たちからすれば「日本人特有の癖のある言い回しかつ日本訛りの英語」を話すわたしの言うことを聞き取るのも困難なのだろうが。

先月、エチオピア出張が決まった同僚A(中国人)に、同僚B(エジプト人)がアドバイスを与えていた。そこでわたしの耳に入ったのは「フッ・ポイズン」と聞こえる単語。頭の中で瞬時に「foot poison」と変換される。

足? 毒?

もちろん「foot poison」というのはあからさまにおかしな表現ではあるが、呪術的な書籍や超現実的な小説を好むわたしは一瞬「いや、踏むと足から感染する毒(呪い)の伝承があるとか……」などと妄想を巡らせる。

そして会話の続き(のかろうじて聞こえる部分)に「chickpeas(ひよこ豆)」という単語が聞こえたことで、ようやくそれが足もとから感染する呪いの話なのではなく「食あたり」の話題なのだと気づく。

今日、再び同僚Aと話していて「今度ギリシャに行くんだ」と告げると、彼女は即座に「ギリシャはわたしがヨーロッパに来て最初に『フッ・ポイズン』にやられたとこなんだよね」と答える。さすがにわたしも学んでいるから今回はすかさず「原因は何だったの?」と聞き返す。

フェタチーズ」と彼女は即答した、

日本ではあまり見かけないが、外国の料理番組では頻繁に見かける「フェタチーズ」。本場で食べるのを楽しみにしていた気持ちが、いくらかしぼんだ。